神社検定コラム - 神社検定を知る

「初穂曳に参加しました」体験レポート(第4回) - 神社検定体験団

神社検定体験団 / 平成29年02月01日 「初穂曳に参加しました」体験レポート(第4回)

体験団員No.1 中尾千穂(扶桑社・皇室編集部)
伊勢の神宮で行われる神嘗祭(かんなめさい)を奉祝して、地元の神領民(しんりょうみん)が、全国から寄せられたその年の新穀を神宮の神域に曳き入れ、奉納する行事が「初穂曳」です。平成28年10月15日(土)、外宮(げくう)の初穂曳に、約100名の神社検定合格者が「特別神領民」として初参加。さらに約20名の壱級合格者が、同日夜に外宮で行われた「神嘗祭由貴夕大御饌」を奉拝しました。その貴重な体験をレポートします。(最終回)



 

 

月明かりの神嘗祭 白装束の列が御正宮へ

 陽が落ちると、昼間の暑さはどこへやら。すっかり空気も冷え込んだ午後8時半。壱級合格者約20名が神宮会館をバスで出発、神嘗祭由貴夕大御饌を奉拝するため、再び外宮へ向かいました。

降り立った夜の神域は、ジャケットを着ていても肌寒いほど。朝からの長丁場でピークに達していた眠気も、すっかり吹き飛んでしまいました。私たちを含め、特別に許可された奉拝者が、衛士表見張所(えしおもてみはりしょ)の前に集まっています。頭上の澄んだ夜空には、まるい月が煌々と光っています。

神宮の警護にあたる衛士の方から奉拝について説明を受けた後、奉拝者一同、列を整えて火除橋を渡りました。昼間は、初穂曳の法被姿の神領民や観光客で混雑していた外宮の神域。参拝時間をとうに過ぎた今は人気もなく、黒々とした杜に包まれて、ひっそりと静まり返っています。

月明かりに照らされた参道を進み、待機場所の神楽殿前に並びます。神域では私語は無用。もちろん携帯電話も電源オフです。聞こえてくるのは、上空を横切る飛行機の音と、虫の声。時おり梢のほうから「ギュルルル」と、ムササビの鳴き声もします。

そして、午後10時。左手から「ドン、ドン、ドン」と太鼓をゆっくり三連打する音がして、だんだんこちらに近づいてきます。やがて、太鼓を手にした白丁(はくちょう)が歩いてきて、私たちのいる神楽殿前を大股で通りすぎていきました。太鼓の音は、神事の始まりを告げるもの。いよいよ神嘗祭の由貴夕大御饌が始まるのです。

白丁の姿が見えなくなると、やはり左手から、今度は「ザッ、ザッ」と参道の砂利を踏む音が近づいてきます。松明(たいまつ)に足元を照らされて、白い斎服(さいふく)をまとった大宮司以下神職の列が進んできました。一行は私たちの前を通りすぎると、神楽殿の角を右へ折れていきます。これから忌火屋殿(いみびやでん)前庭で修祓(しゅはつ)を行うのです。

しばらく後、修祓を終えた大宮司以下神職の列が、再び神楽殿の横を通り、御正宮へ参進していきました。そのなかに、素木(しらき)の辛櫃(からひつ)を運ぶ神職の姿も見えます。辛櫃には、これから大御神にお供えする由貴大御饌(ゆきのおおみけ)と呼ばれる神饌が収められています。

 

神楽歌の調べ、庭燎のゆらめきに

神事の気配を感じて

 神職の列を見送った後、奉拝者も御正宮へ移動。外玉垣の外側から、神事を奉拝します。御正宮の奥の方から、「ア~ア~~」とゆったりとした歌声が聴こえています。神職が歌う神楽歌です。歌声とともに、旋律を奏でる篳篥(ひちりき)や、時おりコツ、コツと入る笏拍子(しゃくびょうし)など、雅楽器の音も聴こえてきます。

外玉垣の隙間から覗き見ると、御垣内の左右で庭燎(ていりょう)が焚かれています。パチパチと燃えさかる炎が、御垣内に立つ大きな杉の木や、内玉垣南御門にかかる白い御幌(みとばり)を赤く照らしています。神楽歌は御幌の奥から漏れ聴こえているようです。

浄闇(じょうあん)のなか、夕(ゆうべ=午後10時)と朝(あした=午前2時)の二度にわたって行われる由貴大御饌の儀。それは、神宮の一年のなかで最も重要なお祭りである神嘗祭の核たる神事。神宮神田で清らかに栽培された新穀の御飯・御餅・神酒をはじめ、山海の幸をお供えして、大御神に秋の実りを感謝します。神事は内玉垣のさらに奥、瑞垣に囲まれて建つ御正殿の階段下で行われていて、その様子は奉拝者からは見えません。ただ、こうして神楽歌の調べに耳をすませ、火明かりのゆらめきを見つめていると、どこか別世界へ誘われるよう。幽かな神事の気配を感じながら、じっと夜気に佇みます。

まだ神楽歌が響き続ける御正宮を後にしたのは、午後11時ごろ。高くのぼった月を見ながら参道を戻りました。道すがら思い返すと、さっきかいま見た光景や耳に残る神楽歌の調べが、不思議に遠い昔のことのようにも思えます。

神域を出ると、目の前には夜の市街地。非日常から日常の世界へ戻ってきたところで、壱級合格者チームも解散です。神宮で過ごした長い長い特別な一日は、こうして終わったのでした。

レポート:中尾千穂(扶桑社・皇室編集部)

 

 

記事一覧

PAGETOP